親友モードのもだもだ
「次はどこを見にいく?」
「猫雑貨の店がどうとか言ってなかったか」
「! そうだった!」
カフェの向かいに新しくできたんだって、と店の方角を指せば、なら行ってみるかと微笑んで、彼はゆっくり歩き出す。その隣に並ぶ私がいつも少し緊張していることを、きっと彼は知らない。
珪くんは、友達だから。
自分にそう言い聞かせて、いろんなものを見ないふりをして、もう何ヶ月経ったっけ。
一緒にいろんなところへ出かけて、いろんな話をして。私はいつも、デートみたいだと思いながら電話をかけて、そういうつもりで服を選ぶ。珪くんにとってはただの外出でしかないのに。
私は、ずるい。
彼の優しさにつけこんで、いつまでも茶番に付き合わせて。押し込めた恋心に気づいてほしいのに、知られることを畏れている。
「わっ」
「……っ」
突然つま先がつんっと引っかかって、視界が傾ぐ。そのまま転んでしまうと思ったけれど、受け身を取ろうとするより早く、腕を掴まれた。そのままぐっと引き寄せられて、私の身体はぬくもりの中に倒れ込む。
「大丈夫か?」
「う、うん」
「何もないところで躓くなよ」
「返す言葉もございません……」
頭の上から声が降ってきて、ようやく、自分が珪くんの腕の中にいるのだと理解した。あれ、もしかして今、抱きしめられてる?
薄いシャツ越しに聴こえる心臓の音が、心なしか速い気がする。私の鼓動も珪くんに伝わっているのかな。それはちょっと、恥ずかしい。
華奢に見えてあちこち引き締まってるんだなあとか、普段は気づかない柔軟剤の香りだとか、一度意識してしまったら、ぶわりと顔が熱くなるのが自分でもわかった。
このままくっついているのは、たぶん、双方にとってよくない。
「珪くん、あの……」
「……悪い」
ゆるく背中に回されていた手がゆっくりと解かれる。離れていく体温が寂しくて、だけど、私たちの間にはそれを指摘できる言葉がなくて。
沈黙が落ちる。その気まずさを誤魔化すみたいに、そっと右手をとられた。驚いて彼を見上げれば、バツが悪そうに視線を逸らされてしまった。
「……また転んだら困るだろ」
言い訳みたいにそう言った珪くんの耳は、ほんのり赤かった。
指も絡めない子供みたいな繋ぎ方なのに、触れているところが熱いのは、どっちの体温なんだろう。
珪くんは、友達だけど。
友達だって手ぐらい繋ぐよね、なんて、また自分に言い聞かせた。
まだもう少しだけ、ずるいままでいさせて。