合同文化祭ネタ。ナレーションを任された葉月の話。
手伝ってほしいことがあると放送部の人たちから名指しで頼まれ、呼び出されたのは体育館だった。
「仮設のプラネタリウム?」
「そう。今度の文化祭でやる企画なんだ」
広い空間の真ん中に置かれたドーム状のテントは、天文部が用意したものらしい。高校の文化祭とは思えないくらい本格的だ。
「それで、私はどうすれば……?」
装置はすごいけれど、部員でもない自分が何のために呼ばれたのか見当もつかない。
すると、その場にいた部員の人たちは揃って困ったような顔をして、部長と思わしき女の子がすっとプラネタリウムの入り口を指した。
「いてくれるだけで大丈夫」
「モニター役ですか?」
「ううん、そういうわけじゃないんだ」
まあ中に入ってみればわかるから、なんてすごく曖昧なことを言いながら背中を押されて、よくわからないままゲートを潜る。そこにいたのは、
「……珪くん?」
ゆるりと瞼が開かれて、視線がぶつかる。体操マットと毛布を重ねた即席ソファの上に寝転んだ彼は、どうやらこんな場所でも微睡んでいたようだった。
そこかしこに見慣れない機材が置かれている。マイクと、その奥にあるのは投影機なのかな。ぶつからないように隙間をすり抜けるけれど、倒してしまわないか、ちょっとひやひやさせられた。
まだぼんやりしている珪くんに、手伝いを頼まれて来たんだけど……と切り出せば、うん、と頷かれる。いや、うんじゃなくて。
私の戸惑いを察したのか、珪くんはぬっと上体を起こすと、彼の隣の空いたスペースをぽんぽん叩いた。
「おまえも座って。ここ」
「私も?」
言われるままに腰を下ろすと、珪くんは神の束を見せてくれた。なんでも、このプラネタリウムで流すナレーションを頼まれていて、今日がその収録日ということらしい。そういえば、先週の校内ラジオでそんなことを言っていたかも。
「原稿、結構自由なんだ」
「天文部の人が書いてくれるんじゃなかった?」
「解説の内容はな。でも、言い回しとかは好きなように読んでくれって」
ほら、と珪くんがめくったページには、確かに星座の説明文が箇条書きになっていて、そのまま読み上げるには少し味気なさそうだ。
「誰かに語りかける感じでって頼まれたけど、ひとりじゃ、よくわからないから」
「なるほど……」
つまり、珪くんの語りの聞き役をするのが私の役目ということらしい。私の声はあとから編集でどうにでもカットできるので、隣で好きなように合いの手を入れてほしいということだった。
なぜ私が、と思ったのが顔に出てしまっただろうか。話しやすいやつを呼んでいいって言われたから……と、珪くんはちょっとだけ申し訳なさそうにしている。頼ってくれて嬉しいよと言えば、彼はほっと眦を緩めた。
「あっという間だったな」
収録は一発オーケーが出されて、協力のお礼にと、ふたりだけで、もうしばらく星空を堪能させてもらえることになった。
解説のナレーションもプログラムもない、静かな星空。一緒に星を指さし数えながら、珪くんは何を考えているんだろう。
私は。私は……。
珪くんの声があんまり優しいものだから、まるで寝物語を聞かされているみたいだと思った。
「ねえ、珪くん。私……」
「……? なんだよ」
言いかけたけれど、続きはやめてしまった。
もしかしたらと思うことはこれまでにも何度もあって、だけど私の曖昧な記憶では確証がなくて。勘違いだったときに恥ずかしいからと、珪くんには聞けずにいること。
前にもこんなふうに、珪くんからお話を語り聞かせてもらったことがあるような気がする、だなんて。
きっと変なやつだって思われてしまう。
だから代わりに、次の約束を。
「ねえ、文化祭、午後は一緒に回らない?」