Girl's Side 2nd Kiss

3年目の3月。渡せなかったチョコレートの話。

ホワイトデー

    「これ、先月のお返し」

     ことりとテーブルに置かれたのは、小ぶりなチーズケーキだった。

     今日のデートは部屋へ来てほしいと言われて、請われるままに訪れた珊瑚礁。何年も空き家にしておくのもよくないだろうからと、ときどきは出入りすしようとふたりで決めたけれど、その機会は存外あっさりと訪れたというわけだ。
     瑛くんは慣れた手つきでコーヒーの用意を終えると、向かいの席に腰を下ろした。
     数ヶ月ぶりに見た、瑛くんが作ったケーキ。食べさせてもらえるなんて嬉しくないわけがないけれど、これが「お返し」だというのなら、このまま受け取るわけにはいかない。

    「私、今年は何もあげてないよ?」

     だって瑛くんいなかったもんね、とは流石に言えないし、言わない。別に彼を責めたいわけでも、謝ってほしいわけでもないから。彼がひとりでたくさん迷って考えた末に私を探しにきてくれた、それが私たちの全てだった。
     けれども彼はきっと負い目を感じていて、だからほら、視線が逃げていく。

    「……バレンタインの夜、おまえが珊瑚礁を覗きに来たって、じいちゃんから聞いた」
    「……うん」
    「探しにきてくれたんだよな、ごめん」

     会えないとわかっていても、彼のためにと作ってしまったチョコレートを、他の誰かに渡して消費する気にはなれなくて。マスターから渡してもらえないかと期待して会いに行ってみたけれど、結局、海を眺めながら全部ひとりで飲み込んだ。

    「今更ほしいって言われても、あげられないよ。わたしが全部食べちゃったから」
    「……うん」
    「でも、あげてないもののお返しももらえない」
    「…………っ」

     瑛くんは何かを言おうとして、けれども口元をもにょもにょ迷わせたあと、結局口を閉じてしまった。ああ、そんなふうに傷ついてほしいわけじゃないのに。

    「だからね、瑛くん」

     立ち上がって、テーブルの反対側へ回り込む。
     顔を上げた彼の瞳は、困惑に少し揺らいでいた。視界を覆い隠すみたいに覗き込めば、当然そこには私の姿しか映らなくて、気分がふんわり上を向く。私はそのまま、触れるだけのキスを落とした。

    「え、」
    「チョコの代わりにこれで許してくれる?」
    「〜〜〜っずるいよ、おまえ……」

     どうやらお気に召したらしい。
     恨めしそうにこちらを見てくる彼の、ほんのり染まった耳の先を眺めながら、私はチーズケーキを堪能すべくフォークを手に取った。