永遠はないと知りながらも、二人の未来を願わずにはいられない。二度と戻らないあの日の続きを、選ばないことを選んだあの虹の向こうを、未完成なまま置いてきたあの曲の終わりを、もう俺が夢に見ないで済むように。
薄曇りの空を見上げる度、真っ直ぐな瞳が瞼にちらつく。視界の端で揺れる髪、ステップに合わせて翻る布、足元でさざめく光の海、僕らに降り注ぐ照明。ぜんぶ忘れられそうにもなくて、今日も僕はあの色を爪に乗せる。
宝石のようなふたりの色を見かけると、心の中で呟かずにはいられない。彼らの行く先に末永い幸運を。俺はもう遠くから願うことしかできないけれど、どうかふたりが最期の瞬間まで舞台の上に立っていられますように。
整頓された名刺ファイルの隅に紛れ込んだ安い手帳の切れ端は、少し歪な数字を肩身狭そうに掲げていたけれど。この震えた筆跡が、世界でいちばん愛おしくていちばん大切なものだということを、僕はもう知っているよ。
あの日僕らの前に躍り出た狂犬の君は、今ではすっかり処世術を身につけて、その牙を隠せるようになった。僕だってもう見ているだけの僕ではないつもり。僕らはあの頃より、大事なものを巧く守れるようになったかな。
身も心も名前の通りの真白に思えたあなたは、溶けることを恐れるみたいに、冬の殻に閉じこもってしまったけれど。俺が春へと引き摺り出して、きっと守ってみせるから。冬の間にあったこと、いつか教えてくれますか?
今でも時折夢に見る。喫茶店の少し硬い腰掛け、いつもの珈琲、どこまでも続きそうな参道、微かに薫る潮風の匂い。静かな波と踏切の音、抱えたギターの重さ、ふたり揺られた二両の電車。いつだって帰れるはずなのに、
願掛けなんて、軽い気持ちでするものじゃない。今だからこそ思うけれど、当時の俺たちにそう言ったって、きっと同じことを繰り返すんだろう。あの願いは叶わなかったけれど。少し傷んだ毛先が、祈り方を知っている。